ずくなしの気ままに 花・山

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2008年 11月 11日

黒戸尾根

黒戸尾根は、甲斐駒山頂から東北に延び白州に至る、標高差2200mに及ぶ長大な尾根である。
信仰登山の道として古くから使われてきた歴史の有る古道だが、現在は北沢峠からの登山者が多く、比較的に静かな山旅を楽しめそうな道だ。
以前から、甲斐駒に登るならこの道を歩こうと決めていたが、実現していなかった。今年は盆過ぎから天気が悪く、なかなか山行の機会が無かったが、8月の最終週末の天気が良さそうなので、黒戸尾根・甲斐駒から早川尾根を2泊3日で縦走する計画を立ててみた。ところが、出発当日は大雨になってしまい、仕方なく1泊に変更し黒戸尾根をピストンすることにした。

登山口は2つあり、竹宇・横手の両駒ヶ岳神社である。ともに国道20号を甲府に向かい、白州の道の駅の交差点を右折し、車で10分ほどのところにある。今回は横手駒ケ岳神社から登ることにした。
横手駒ケ岳神社駐車場脇の舗装路を、神社を回りこむように登るとすぐに丁字路に当たる。そこを左に10数メートル行ったところに登山口は在った。
まだ夜が明けきらぬ薄暗い道路わきに、樹木のトンネルがさらに暗々と口を開けている。傍らには「熊出没注意」の看板が「ここから先へは行かぬほうが良いぞ」とばかりに立てられ、入り口の雰囲気と相まって踏み込むのに躊躇する。最近熊に遭遇した人がいるらしい。とは言えここで撤退と言うわけにも行かず、腹をくくって登り始めた。

周囲は鬱蒼とした雑木林で、見通しの悪い暗く陰鬱な道がうねるように続く。何者かにいつ出くわしてもおかしくないような雰囲気で、用も無いのに振り返りたくなる。しばらくすると尾根に乗り、時折樹木の切れ間から周囲の山や麓の集落が見えるようになってきた。曇天ながら夜が明け、時折り陽射しも見えて周囲が明るくなり少しホッとした気分になる。1時間ほど歩いたところにベンチがしつらえてあり、樹木を切り開いたのだろうか正面に八ヶ岳が姿をみせていた。
そこから20分ほども歩いただろうか、周囲はいつの間にか針葉樹の森で、太い針葉樹の根元に「御牧場入り口」と言う道標が掲げられていた。疑問に思いつつ尾根をはずれ少し下り気味に進むと、一時に視界が開け、その雰囲気の変わり方は劇的だった。低い脛ほどの高さの笹原に広葉樹がひろがっており、苔むした岩が点々と散在する明るい林だった。場所は1375ピーク少し手前の尾根の腹と思われる。地図上の道は尾根をたどっているが、実際には尾根の北側の広い谷を横切っているようだ.。「なるほど、これが御牧場か」ゆっくりとしたい場所だが、先ほど休んでからまださほど時間が経っていないのでそのまま進んだ。路は1375ピークの山腹を緩く登りながら横切り、ピークを踏むことなく、少し急な斜面をトラバースしてから急下降し暗い沢に下りた。
沢を渡ると少し急な登り返しになる。細い流れに沿ったり離れたりまた渡ったり、急坂をつづら折れしながら登って行く。折り返し点には所々石仏か石神かが置かれ、彫られた字も読めぬほどに風化したものもあり、古い路であることを感じさせてくれる。細い流れの脇、少し広くなった場所で休みを入れた。足元にはじめて見る花、ゲンノショウコと同じか少し小さめの白い花が咲いていた。多分小フウロだろう。

再び歩き始めて15分ほどだろうか、徐々に傾斜がゆるくなり、足元はまた笹に覆われ、じめじめした暗い感じから広々とした明るい雰囲気に変る。広い尾根の中ほどで、竹宇からの路と合流した。この辺り広い尾根と笹原が続く、緩急を繰り返しながら延々と登っていく。途中、水でえぐられ路が荒れてしまっている部分も所々にあるが、おおむねは歩きやすい。大きな石碑が注連縄で祭られているところで休んでいると後からトレラン姿の人が追いついてきた。この長い尾根を頂上まで日帰りするそうだ。うかうかしていられないと腰を上げ歩き出す。徐々に針葉樹と苔むした岩の路に変わっていき、この辺りもなかなか雰囲気が良い。しばらくなだらかに登った後、急に樹林が切れた。目の前に大きな岩が横たわり鋭い三角の稜が延びている。これが「刃渡り」か・・・見た目にはさほど危険には見えない。実際に歩いても、右手に鎖の手摺が付いていて危うさは感じない。ただし濡れたり雪が付くと恐いかもしれない。そこを渡り終え鎖場や梯子場を含む急坂を登ると、祠があり刀剣が立つ小広場にでた。刃利天狗に着いた。
刃利天狗からまたしばらく急登が続き、それがやがて緩やかになると黒戸山である。樹影が濃く展望は無いが、樹木の足元は厚い苔に覆われていて、しっとりと落ち着いて気分が癒される感じがする。茸が沢山生えていて食べられる物もあり、今夜の菜に少し摘んだ。
ほぼ水平の路がしばらく続き、やがて今度は下りだした。登り途上での下りは嫌だ、とても損をした気分になる。目の前にはこれから登るべき峰が高々と聳えているのに、路はどんどん下っていく。帰路の登り返しを重ね合わせて気が重くなった。70~80mほども下った頃樹林が途切れ、5合目の小屋の跡に出た。ちょっとした広場になっていて、冬場は良いテント場になりそうな場所だ。ここで一休みした。

5合目小屋跡からさらに20mほど下るとそこが鞍部で、正面は切り立った岩壁になっていた。岩壁の足元に祠が祭ってある。その右を回った奥のガリーに長い梯子が掛かっておりそれを登る。上り詰めるとすぐ右手がさらに梯子になっていた。
この辺りから記憶が大分曖昧になってくる。あんな梯子が在ったとか、こんな鎖場が在ったとかは有る程度覚えているが、順番や位置関係などはごっちゃになってはっきりとしない。いずれにせよ梯子・鎖が連続する急登を登り、平坦になったと思うと下っていく。また下りかとため息をつきながら少し下ると、急に落ちて谷になり、その先はまた岩壁になっていた。その谷に橋がかかりすぐ先に梯子が見えている。橋は古く朽ち掛けた橋の上に新しい踏み板を渡してあった。橋の中ほどから下を覗くと、両側ともスッパリと切れ落ちて結構な高度感があった。渡りきりすぐに梯子に取り付き登る。切れ落ちた岩場を横切るように桟道が渡してあったりして「踏み外したら終わりだな」などと余計なことをつい考えてしまう。
そんな桟道の途中で先ほど追い抜いていった人とすれ違った。「もう頂上まで行ってきたんですか?」と聞くと「行ってきた」と言う。時計を見るとまだ1時半。先ほど抜かれてからまだ5時間も経っていない。この先頂上までまだ3時間以上はかかる。下り2時間と見ても、追い抜かれてからの時間と合わせ、10時間近い行程を5時間でこなしている。世の中にはすごい人がいるものだ。「この先まだ鎖場や梯子がいっぱいあって、楽しい路ですね、本当の山を登っていると言う気がします。楽しんでください。」と言い残して下りていった。ウーム・・・この人にとって普通の山は一体なんなのだろう・・・などと思いつつ登っていくと、ひょっこりと七丈の小屋に出た。小屋は樹林帯の中の痩せた尾根の上にへばりつくように建っていた。

小屋の入り口を開け中をのぞくと、がらんとして人気がない。「こんちは!こんちは!」と声をかけたが答える人も無く、もう少し登った先にあるテント場に向かうことにした。小屋から数分登ると、崩壊地の斜面を造成して作ったようなテン場があった。眺めはなかなか良く、正面に秩父の山々が見えている。右手には鳳凰山の横に富士山も顔をだしていた。花崗岩が風化してできた白い砂の綺麗なテン場で、鋤簾と鉄のしっかりしたペグが沢山用意してある。ありがたくこれを使わせてもらって今夜の仮屋を設営した。

翌日、夜明けから午前10時頃までは晴天に恵まれた。甲斐駒をピストンし、テントを撤収して山を下る。刀利天狗まで降りたところで雨に降られた。
しょぼしょぼと降り続く雨の中を黙々と下る。午後4時過ぎ、横手に戻り今回の山行を終えた。
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写真は話とはあまり関係なく、途中で採った茸を煮ているところ。味噌を持っていなかったため、ダシ醤油で味付けしたが、なかなか旨かった。

黒戸尾根から甲斐駒ケ岳:8月31日~9月1日

by zukunasi_7 | 2008-11-11 18:21 |


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